初心者オタクのおくるアニメ備忘録

オタクの生活。二次元から栄養素を摂取して生きる生命体の観察記。

読書感想文 ④ 『半分の月がのぼる空』 3,4巻

 3,4巻の感想になる。前回もお伝えしたとは思うが、完全版ではなく旧版を読んでいるので注意されたし。ちなみに、完全版はどこら辺が完全版なのかが気になって軽く調べてみたのだが、どうも伊勢弁にセリフを差し替えているようだ。伊勢弁がどのぐらい標準語と距離のある方言なのか詳しくないのだが、現時点での印象としてはリアリティは増すものの、一部セリフの真意が伝わりづらくなり小説への入り込みに対する障害となるのではないかという疑惑が拭えない、といったところだろうか。

 

 

 

 この作品では半月が象徴的な意味を持っているのだが、私は午前中の灼熱の炎天下の中、駐車場のアスファルトに直に座り込んで読書に勤しんでいた。そう、コミケの入場前待機列で読んでいたのだ。暑すぎて勝手に充電が減っていくような状況でスマホをいじり続けるわけにもいかず、小説を持ち込んでいた自分の先見の明には全く助けられた。周囲を中国の方(おそらく)に囲われ独り孤独に頁を繰っていたのだが、4巻序盤と終盤で人目をはばからず泣きそうになった。日本人は唐突に泣き始めるやばいやつ、との印象を与えずに済み、何よりである。

 

 ナンバリングが④になっている。③はどこ行ったんだと思われるかもしれないが、鋭意執筆中である。イリヤの空その2についての感想文になる予定だ。半分の月がのぼる空4巻を読んで衝動的に書き始めたので、順番が前後しているのである。悪しからず。

 

 では、まず3巻の感想から。一番印象に残ったシーンは、やはり終盤だろう。序盤、中盤も隙が無かった。親父殿の遺品のカメラを使い、日常を幾つも切り取って二人の時間を止めようとする二人の幸せな一時。ほとんど入院生活で学校に行く機会の無かった里香を学校まで連れていく祐一の漢気。幸せな時間を二人で分け合う穏やかな日常。

 しかしながら、終盤からの怒涛の展開はあまりにも、あまりにも。約束された終焉でしたが、もうちょっと遅いのではないかと、そう思っていた展開が無理くりに物語にピリオドを落としてしまった。

 命を擦り減らしながら祐一の前では健気に笑顔を作る里香。たった1分だけの面会に想いを込める二人。

 

 そして、そして最終盤、『チボー家の人々』からの引用文。

 

「命をかけて君のものになる」

 

 Jの署名を塗り替える2本の万年筆の線。そのわきにそっと置かれた小さなRの字。

 

 そんな悲しいことを言わないでくれと、そう叫びだしたくなるほどに失われようとしている命の尊さが身に染みることはない。

 

 等身大の高校生でありながらも必死に藻掻こうとしていた祐一の未熟さと成長。成長してもまだ無力な祐一。里香の想い。

 

 切なさが止まらない第3巻だった。

 

 

 

 第4巻。夏目の過去話が中心となる。幸いにも命を拾った里香と祐一に過去の自分を重ね合わせながら、夏目は若かりし頃の自分を語り始める。彼の奥さんも、また心臓を病んでいたのだ。どうも、読み進めているうちに彼は里香というよりは祐一に同情していたのだと分かる。もうちょっと里香に比重が寄っているのではないかと思っていたが、かなり祐一に肩入れしていたことが分かる。夏目のことは相も変わらず大っ嫌いだが、掌は170度ほど回転した。ごめん、夏目。

 

 そして、祐一である。無力であることを受け入れつつ。漢になったのだ。お前のことを高校生の頃に知っていれば、僕ももう少しカッコよく生きることが出来たのだろうか。高校2年生で心の底から人を愛して、その人がそう遠くない内に喪われることも覚悟して。それでも背負って、一緒に歩こうと心を決めて。独り善がりでなく、里香と2人でこの選択を歩みだしたのだ。

 

 もうほんとに良かった。主人公に惚れられる理由がちゃんとある作品ほど素晴らしいものはない。最高の感だった。ありがとう、橋本紡先生。

 

 アニメの記事もいい加減書きたいが、あんまり残弾がない。水星の魔女、陰の実力者になりたくて、ヨスガノソラのどれかで書こうと思う。

 

 では、また次の記事で。